身勝手な自己投影と共感。
何か作品を好きになると言うのは勝手に自己投影をその作品に対してしていて、そこに共感し主人公が救われるのに対して癒される。
がっつりネタバレする予定なので注意してください。
最近久しぶりに『ストレッチ』を読みたくなり読み返しました。
こちらはやわらかスピリッツというWeb漫画サイトで連載(2013~2015)していた漫画です。
連載を毎週追いかければ無料で読めるWeb漫画でした。
こちらの漫画は恐らく百合というジャンルでOLと女子大生のストレッチをしているところを眺めて癒される日常系の漫画です。
これが連載で追っていたときの認識です。
しっかり読み込んでいた人は癒しというより、喪失からどう立ち直るのかというのがメインストーリーだったと思っていたのだろうと今は考えています。
僕自身はそういった内容ではなくのんびり読めるいい漫画だな~とか考えていました。
ただ、過去の話を読めなくなるWeb漫画連載だったため仕方がないかとは思います。そして、当時Web漫画黎明期(個人的には)であったため様々なモノを同時に読み過ぎていたためでもあるかと思います。
何か強烈に印象が残っていたため7月頃購入しました。
なにかざらっとした心に残る作品であったのは確かでした。
結果として購入してとても良かったです。
この漫画はかなり重いテーマを持ちながらも読みやすい凄い作品だと思っています。
一般的に重い作品というのはページを捲らせる力が弱くだんだん疲れてしまうことが多いです。
しかし、最後まで何度も読めてしまうのがこのストレッチという作品です。
このストレッチの著者はアキリという方です。
詳しく言及は避けますが、他のペンネームはかなり有名な方です。
ただ、この方が百合×ストレッチで終わらせずに、震災や家族による人格形成、そういったパーソナリティな問題にも踏み込むことができていた理由がとても不思議でした。
この方は漫画だけではなく、批評雑誌であるゲンロンの表紙を描き始めた時期とこのストレッチの連載は重なっていました。
他の名義で描いていた百合漫画にはない、そういった批評性や震災をどう乗り越えるかという点を組み込んでいるのはそういうところから来ているのではないだろうかと思っています。
冒頭に、「何か作品を好きになると言うのは勝手に自己投影をその作品に対してしていて、そこに共感し主人公が救われるのに対して癒される。」
と書きましたが、こうした作品を読むことで満足感を得られるというのはこういうことなのかなと思っています。
最後のシーンで慧子と母親の再会を描かなかったのは当たり前ですが、意図的で要するに主題は一人でも立っていられるようになったということを描けていれば良いんだなというのが素晴らしいと思います。
震災について少し思い出したり、家族について考えたり。そこへのアプローチをストレッチの教材と共にやってしまうアキリ先生凄すぎる。
興味があれば買ってみてください。たった4巻完結でここまで満足感のある漫画はないと思います。